東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1737号 判決 1968年8月10日
原告
栗原恵美子
被告
中島精機株式会社
主文
被告は、原告に対し、七二万円及び右金員の内五七万円に対する昭和四三年二月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
本判決は、第一項に限り、仮に、執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
(原告)
一、被告は、原告に対し、一四四万七、〇〇〇円及び内一二七万円に対し昭和四三年二月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二、訴訟費用は、被告の負担とする。
三、仮執行の宣言。
(被告)
一、原告の請求を棄却する。
二、訴訟費用は、原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(原告の請求原因)
一、伴欣征は、昭和四一年七月一六日午前〇時三〇分頃、千葉県市川市新田町四丁目四、一二二番地先路上を、自家用普通乗用車(登録番号、足立五す〇六〇九)を運転進行中、道路端の電柱に右自動車を衝突させ、その結果、同乗していた原告に対し、顔面上半分の多発性切、挫傷の傷害を与えたものである。
二、被告は、右自動車を所有し、これを自己のために運行の用に供していた者であるから、原告に対し、自動車損害賠償保障法第三条により、その賠償責任がある。
三、原告は、本件事故により、以下の損害を蒙つたものである。
(一) 慰藉料二二〇万円
原告は、本件事故により、右眉毛右端上部額から右目頭上部まで刀形に約七センチ、鼻部中央から左目直下まで横に約四センチの主たる切創のほか、左目頭上部、眉間、額にかけて大小数個のガラス破片による切、挫傷を受け、事故当日である昭和四一年七月一六日から同年八月二日まで入院し、その間右傷の縫合手術、その他の手当を受けたが、なお、顔面に著しい醜形を残すものであつた。そこで、原告は、同月一六日頃、昭和四二年三月一一日頃、同年六月一五日頃、三回にわたり形成手術を受けた結果当初の醜形傷痕はある程度まで整容された。原告は、昭和二四年一二月二七日生れの女子で、事故当時高校に在学中であつたが、顔面の醜状を悲しみ、性格も暗くなり、戸外にもでず高校も退学するに至つたほどである。原告は、本件受傷により、肉体的、精神的に甚しい打撃と苦痛を負わねばならなくなつたので、その慰藉料は二二〇万円が相当である。
(二) 弁護士費用一七万七、〇〇〇円
原告は、被告が損害賠償の支払をしないので、本件訴訟手続を原告代理人に委任し、着手金五万円を支払つたほか、判決認容額の一割に相当する成功謝礼金を支払う約束をしたから、合計一七万七、〇〇〇円を損害として請求する。
四、原告は、自動車損害賠償保障法による保険金九三万円を受領し、これを慰藉料に充当した。
五、よつて、原告は、被告に対し、一四四万七、〇〇〇円及び右金員うち慰藉料一二七万円に対する訴状送達の翌日である昭和四三年二月二九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(請求の原因に対する被告の答弁並びに抗弁)
一、第一、第二項は認める。第三項の事実中、原告が本件事故により顔面に受傷したこと、その主張の期間入院治療を受けたこと、原告がその主張の代理人に訴訟委任をしたことは認めるが、その他の事実は知らない。
二、本件事故は、原告において、伴が飲酒運転していたのを知りながら、同乗してきたものであり脳しかも、伴を誘惑するなどしてその前方注視を誤まらせた結果発生したものであるから、本件事故の発生については、原告にも過失がある。
(抗弁に対する原告の答弁)
抗弁事実は、否認する。
第三、当事者の提出、援用した証拠 〔略〕
理由
一、請求の原因第一項記載の本件事故発生の事実並びに同第二項記載のとおり、被告が本件自動車を所有し、これを自己のために運行の用に供するものであることは、当事者間に争いがない。
右事実によると、被告は、原告に対し、本件事故により原告の蒙つた損害につき、自動車損害賠償保障法第三条により賠償する責任がある。
二、そこで、本件事故により原告の蒙つた損害につき、検討する。
(一) 慰藉料について
〔証拠略〕によれば、原告は、昭和二四年一二月二七日生で、本件事故当時、高校二年の女子であつたこと、原告は、本件事故により、顔面多発挫創、顔面多発性創傷を負い、その結果、昭和四一年七月一六日から同年八月二日まで入院し、手術をしたが、顔面の醜形瘢痕を残したこと、そこで、原告は、昭和四一年一一月一六日から昭和四二年六月二二日までの間、三回にわたり切除縫合術、その他の治療を行つたが、現在、なお顔面の創痕は、右眉毛上部、左目下等に目立たぬ程度ではあるが残つており、これらの創痕はある程度の期間をおいて加療すれば一層整容される見込であることを認めることができる。
もつとも、〔証拠略〕によれば、本件事故の発生に至るまでの事情は、次のとおりであることが認められる。すなわち原告は、昭和四一年七月一六日午前〇時頃、同級生の女子と二人で帰宅する途中、千葉県市川市新田町附近において、たまたま本件自動車を運転して進行中の伴欣征から乗車することをさそわれたこと、原告らは、伴とは一面識もなく、しかも伴がわずかに酒気を帯びていた様子がうかがわれたにもかかわらず、助手席に同車したこと、伴は、原告らを右自動車に乗車させて同所四丁目四一二二番地先路上にさしかかつた際、原告らの肩に手をかけるなど原告らに注意を向けたため前方左右の注視が不十分のまま進行し、道路左端の電柱に衝突したものであることが認められる。
以上のとおり、原告の本件受傷の程度、並びに本件事故発生に至るまでの事情を合せ考えると、原告の慰藉料として、一五〇万円が相当である。
(二) 弁護士費用
〔証拠略〕によれば、原告、被告が本件事故による損害賠償の請求に応じないので、昭和四三年二月一〇日本件損害賠償請求手続を弁護士吉田賢三に委任し、その着手金として五万円を支払い、その他、実費のほか、報酬として、判決認容金額の一割を支払う約束をしたことを認めることができる。
ところで、本件事件の難易、認容額、被告の抗争状況、その他の事情を考慮して、原告の支払うべき費用のうち、一五万円を被告に負担させるのが相当である。
三、過失相殺の抗弁について、判断する。
本件事故の発生に至るまでの事情は、前記認定のとおりである。被告は、伴が原告らから誘惑されたために運転を誤つたと主張するが、右事実は、本件全証拠によつても、認められない。そうだとすれば、原告らが伴の運転する自動車に同乗するに至つた事情が慰藉料算定の一事情として考慮するのはともかくとして、これを同乗者の過失とすることはできない。
四、原告が自賠法による保険金九三万円を受領し、これを慰藉料に充当したことは、原告の認めるところである。
五、よつて、被告は、原告に対し、七二万円及び右金員のうち慰藉料五七万円に対し損害発生の後である昭和四三年二月二九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があり、原告の請求は右の限度で相当として認容すべきであり、その余は失当であるから棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 福永政彦)